ユビキチン修飾系とは?

ユビキチン修飾系は1978年にエネルギー依存的タンパク質分解系の一部として発見されたタンパク質翻訳後修飾系であり、細胞周期・シグナル伝達・転写調節など数多くの生命現象を制御しています(図1)。ユビキチン修飾系の異常がガンや神経変性疾患などの原因になっていることや、ユビキチン化タンパク質を分解するプロテアソームの阻害剤が抗ガン剤として認可されるに至り、私たちの長年の共同研究者であるCiechanover教授らに2004年にノーベル化学賞が授与されています。


しかし、ノーベル賞が授与されたからと言って、ユビキチン修飾系の研究が峠を過ぎたわけではありません。図2に示すようにユビキチン修飾系はタンパク質分解のみならず、タンパク質結合ドメインとして、シグナル伝達やDNA修復に係わること、膜タンパク質にリソソームへのターゲッティングシグナルとなることなどが知られており、現在ではユビキチン修飾系はタンパク質分解のみならず、広くタンパク質機能を制御する可逆的なタンパク質修飾システムとして位置付けられています。言い換えれば、ユビキチン修飾系はタンパク質分解の枠組みを遙かに凌駕し、多彩なタンパク質制御を司っていることが明らかにされつつあり、今後ますます発展が期待できる分野です。

ユビキチン修飾系はほとんどの場合、ユビキチンが数珠状に連なったポリユビキチン鎖を結合させることでタンパク質の機能を制御しています。ポリユビキチン鎖はユビキチンのリシン側鎖のε-アミノ基にユビキチンのC末端がイソペプチド結合を繰り返すことにより形成されると考えられてきました。しかし、私たちはユビキチン研究に新たなパラダイムを拓く全く新しいユビキチン修飾である直鎖状ポリユビキチン鎖を見出しました。直鎖状ポリユビキチン鎖はリシン側鎖ではなく、N末端のメチオニンのα-アミノ基にユビキチンのC末端がペプチド結合することで形成されます。直鎖状ポリユビキチン鎖はNF-κBの活性化に関与しますので、NF-κBの項で詳しく説明します。

図1 : ユビキチン依存的タンパク質分解系
(現在ではユビキチン修飾系の機能の1つ)

E1(活性化酵素)/E2(結合酵素)/E3(ユビキチンリガーゼ)の3種の酵素群の働きによって、E3に選択的に識別された標的タンパク質がポリユビキチン修飾を受ける(多くの場合はK48鎖:詳細は図2を参照)。ポリユビキチン鎖がマークとなって、ユビキチン修飾を受けたタンパク質は26Sプロテアソームによって分解される。ユビキチンは標的タンパク質から切断され再利用される。

図2 : ユビキチン修飾系の概略

図1で示したように、ユビキチン修飾系はE1(活性化酵素)/E2(結合酵素)/E3(ユビキチンリガーゼ)の3種の酵素群の働きにより、E3が選択的に識別する標的タンパク質にユビキチンを結合させる翻訳後修飾系である。ユビキチンが1つ結合するモノユビキチン化によってタンパク質の機能を制御する場合もあるが(D)、多くの場合は連続的にユビキチンが結合することで生じるポリユビキチン鎖が結合することでタンパク質の機能を制御する。しかもポリユビキチン鎖の種類によってタンパク質の制御様式が異なることが示唆されている。ユビキチンの48番目のリジン(K48)を介したポリユビキチン鎖は標的タンパク質のプロテアソームによる分解シグナルとなるが(A)、K63を介したポリユビキチン鎖はタンパク質結合ドメインとして機能し、シグナル伝達やDNA修復に関与する(B)。モノユビキチンがタンパク質の内在化シグナルとなることも知られている(D)。私たちは、新規ポリユビキチン鎖である直鎖状ポリユビキチン鎖を同定した(C)。

ユビキチン修飾系の多彩な機能

ではユビキチン修飾系はどうしてこの様な多彩な役割を果たすことが出来るのでしょうか?

私たちは大きくは2つの理由があると考えています。

1つ目は、ユビキチンリガーゼはいつも標的タンパク質を識別しているのではなく、タイムリーにかつ選択的に識別する能力を持っていることです。つまり、ユビキチン修飾系は時を得て選択的に標的タンパク質を識別してユビキチン化出来ることです。

2つ目はタンパク質の修飾様式が多様なことです。図3で示すように生体内には多様なポリユビキチン鎖、モノユビキチン鎖があります。また、近年ではユビキチン間の結合様式の異なる混合鎖や分岐鎖の存在も示唆されています。ユビキチンは76アミノ酸からなる小さいタンパク質ですが、翻訳後修飾因子として考えれば、リン酸などと比べれば非常に大きいことが判っていただけるともいます。ユビキチン間の結合が異なれば、当然立体構造は異なるので、それぞれのポリユビキチン鎖特異的な結合タンパク質によってそのシグナルが読み解かれると考えられます(図4)。
今後、まだ役割の不明なポリユビキチン鎖の機能解明が進めば、ユビキチン修飾系が生命にとって如何に重要なものであるが明らかになってくるでしょう。

図3 : ユビキチン修飾の多様性とその機能

図4 : ポリユビキチン鎖は特異的なポリユビキチン鎖結合
 ドメインに認識されることでデコードされる。