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ScienceはFantasticに
医学部を卒業してしばらくは内科医としてのキャリアを歩みました。とりわけ、初期研修の2年間は日本でもトップレベルの病院での研修で疾患に苦しんでおられる患者さんに接して悩み続ける日々お送りました。その思いが強かったためか、内科の大学院に進んで自己免疫疾患の病因に迫り、治療法の開発に繋がるような研究に着手しました。大学院時代には疾患研究だけではなく、知的好奇心の赴くままに広く生物学全般に関して知識を広めていくなかで、人類に大きく貢献するbreakthrough、例えば、細胞周期、細胞死やオートファジーは、疾患を見つめることからではなく、酵母、線虫などのモデル生物の研究から発見されていることに気付きました。
元・米国国立ガン研究所所長のR. Klausner博士の研究室への留学を機に研究テーマが鉄代謝調節機構に変わりました。Klausner博士は医学部卒業者ではありますが、生物学全般において多くの世界的な業績を残されたエネルギッシュな研究者です。この留学を経て、疾患にとらわれることなく医学・生物学の重要な問題に正面から敢然と立ち向かうおうと決心を致しました。表題はKlausner博士が良く話された言葉です。
留学中にもう1つ大きな出来事がありました。鉄代謝制御系の研究から派生してユビキチンの研究に着手し、留学中に国際カンファレンスで発表したことです。その学会でユビキチン修飾系の発見者でノーベル賞受賞者であるCiechanover教授と知古を得ました。タンパク質分解は生化学的には発エルゴン反応でエネルギーは不要です。細胞にはエネルギー要求性のタンパク質分解系が備わっていることが報告されていましたが、その理由は謎でした。Ciechanover教授らは「なぜタンパク質分解にエネルギーが必要なのか?」と言う命題に取り組み、その過程でエネルギー依存的タンパク質分解系の一部としてユビキチン修飾系を発見しました。今やユビキチンは分解の枠組みを遙かに超えた多彩な機能を有していることが明確になっています。私たちもその解明の一部に貢献することができました。私はCiechanover博士らの「科学的に大事と思われる命題を見つけて解明する」研究姿勢に深い感銘を受けました。
そして、私は臨床医としての人生ではなく、研究者としての人生を歩むことを決めたとき、人生は一回だけなので、自分が地球上に存在した証しになるようなオリジナルな研究をしようと誓いました。
ユビキチン系の特徴はユビキチンが数珠状に繋がったポリマーであるユビキチン鎖が結合することでタンパク質の機能を制御する点にあります。私たちは「ユビキチン鎖はどのようにして形成されるのか?」と言う純粋な生化学的な問題の解明を進める過程で、現在の主たる研究テーマである直鎖状ユビキチン鎖と同ユビキチン鎖を特異的に生成するLUBACユビキチンリガーゼを発見できたのだと思います。
医者を辞めて以来、「ヒトのためになることがしたいのなら医者を続けている!」と自分に言い聞かせつつ、自分の中で湧き出てくるScientificな疑問に対峙し、ひたすらfundamentalな生化学的なプロセスで未解明な問題を追及してきました。その過程で、今後人類が克服すべき疾患の治療法開発に繋がるような研究成果も得られてきました。とりわけ、直鎖状ユビキチン鎖が私の原点である自己免疫疾患と関連するかもしれないことは、本当に嬉しく思っています。その結果、思いもよらなかった栄誉に浴することもできました。望外の喜びです。
2012年から京都大学に研究室を構えて以来、多くの若い方々と一緒にScienceを楽しむことができています。これからは、若手の皆さんに主体になってもらい、一緒に生物学的に根源的な問題にチャレンジして1つでも多くの人類の英知としての新たな発見をすることが出来ればと思っています。出身学部を問わず、若い俊英が私の研究室に集ってくださることを願っています。
経歴
- 1985年
- 京都大学医学部医学科卒業
- 1985年 - 87年
- 神戸市立中央病院 研修医
- 1992年
- 京都大学大学院医学研究科博士課程終了
- 1992年 - 93年
- 京都大学医学部付設免疫研究施設免疫生物学助手
- 1993年 - 96年
- 米国国立保健研究所(NIH)研究員
- 1996年 - 97年
- 京都大学大学院 医学研究科免疫細胞生物学教室助手
- 1997年 - 99年
- 京都大学大学院 医学研究科免疫細胞生物学教室助教授
- 1999年 - 2001年
- 京都大学大学院 生命科学研究科認知情報学講座助教授
- 2001年 - 08年
- 大阪市立大学大学院 医学研究科老年医科学大講座分子制御分野教授
- 2008年 - 12年
- 大阪大学大学院 生命機能研究科 代謝調節学研究室教授
- 2012年 -
- 京都大学大学院 医学研究科 細胞機能制御学教授
受賞歴
- 2015年
- 日本医師会医学賞
- 2017年
- 持田記念学術賞
- 2019年
- 武田医学賞
- 2020年
- 上原賞
- 2021年
- 日本学士院賞